
斉堂透夜
「終打、いまを生きるんだ。誰が正しいかを突き止めて、お前の手で“幸せな環境”を作ってくれ。」
これは10年前、今では行方不明となった父が何度も言っていた言葉だ。

そして今──2034年、
斉堂終打は高校のパソコン室で、ひとりキーボードを叩いていた。
昼休み、誰も来ないこの時間が、いちばん落ち着く。

画面に表示されたのは、AIの応答。
終打が打ち込んだのは、未来の気象予測をもとにした、架空の都市計画を立てるプロンプトだった。
べつに誰かに頼まれたわけではない。AIに指示を出し、それがどう動くかを見るのが楽しいのだ。

終打は幼少期、ネット内のチャットに夢中だった。
言葉をすばやく打って、相手の意図をくみ取り、的確に返す。
そのやりとりの積み重ねが、今の終打をつくっていた。

そんな終打の前に、一通の封筒が送られてきた。
机の上に、真っ白な封筒。差出人は記されていない。
封筒を開けると、こう書かれていた。
《Type Fes – 全国タイピング競技大会 招待状》
あなたの指先が、世界を変える力を持つことを、私たちは知っています。
予選は一週間後。
参加する意思がある場合は、この紙をご返送下さい。
今を生きていた大切な人とは、いずれ会えるでしょう。
終打は、この大会の参加を決意した。