
終打は、駅前にある古いビルの前に立っていた。
(……ここが予選会場?)
ビルの入り口には、「8階:Type Fes予選会場」と書かれていた。

エレベーターに乗り、8階のボタンを押す。
静かに動くエレベーターの中、終打の胸に、少しだけ緊張が走った。

扉が開くと、黒いスーツを着た男性が立っていた。

男性「こちらへどうぞ」
静かな声にうながされ、終打は部屋の中に入る。

中には、机と椅子がひとつ。
その上には、黒いモニターとキーボードが置かれていた。
終打が椅子に座ると、モニターに文字が表示された。

【Type Fes 予選】
時間:10分間
最低文字数:2000文字以上
内容:「あなたがAIに期待する事」
終打は、キーボードを叩き始めた。
終打が書いた内容の一部分
「AIは、人間の代わりではない。判断を誤るのは、人間の特性だ。
迷い、揺れ、感情に呑まれる。だが、それは排除すべきものではない。
感情があるから人間であり、感情があるからこそ、凄まじいアイデアが生まれる。
AIがすべきことは、冷静に、ただ事実を人間に突きつけること。
意思決定を代行するのではなく、” 視点を整理する材料 “を提供すること。
僕がAIに期待するのは、指導でも誘導でもなく、
沈黙の中で選択を支える、もう一つの思考だ。」
10分が経ち、モニターの表示が変わった。

【予選通過】
本選出場が決定しました。詳細は後日、通知されます。
終打は無言のまま、部屋を退出した。

部屋を出る直前、モニターが一度光ったが、内容はよく見えなかった。
次なる試練に備え、終打は家でひたすらタイピングに没頭した。