
東京郊外にある体育館。
歴史ある校舎の一角に、その会場は用意されていた。
終打は、入口の前に立ち、扉を静かに押した。

広い体育館には、等間隔に並べられた机とモニター。
天井からは電子表示板が吊るされており、そこにはこう書かれていた。
【1回戦】「タイピング・タイムアタック」
制限時間 :60秒
タイプミス:10回まで
終打「用意された文章をできるだけ多く入力する形式か。」
終打はその表示を目にすると、自分の席番号を確認し、静かに着席した。

ぼーっとしていると、対戦相手が来た。
琴葉「こんにちは。関西から来ました、早打 琴葉と申します。よろしくお願いします。」
落ち着いた口調と丁寧な挨拶。
明るく朗らかな印象だが、目に宿る芯の強さは隠せていない。
終打は一礼だけで返すと、黙ってモニターに目を向けた。

「タイピング開始まで、10秒前――」
終打は深く息を吸い、キーボードに指を添える。
琴葉も姿勢を正し、ディスプレイに視線を落とした。
「……スタート!」
キーボードの打鍵音が、一斉に体育館に響き渡った。
無数の雨粒が、一気に降り注ぐような音の波――。

その中でも、早打琴葉のタイピングは目を引いた。
ブレのない姿勢、リズムを崩さず、安定したスピード。
指の運びに迷いはなく、打鍵はまるで練り上げられた楽曲のように美しい。
全国最高クラスの速さだった。
「終了」
モニターに結果が表示される。
終打: 1008文字(win)
琴葉: 312文字
琴葉は、終打のスピードに違和感を感じ、後をついて行った。
──第1回戦、終了。